学而篇第一-9.終わりを慎み…

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現代語訳と原文・読み下し

高弟の曾参ソウシン先生が言いました。「自分もいずれ死ぬのだからと言動行動を慎んで、過去を振り返るようにしていれば、人々の性格はきっと温厚になるものだよ。」


曾子曰。愼終追遠、民徳歸厚矣。

曾子ソウシ曰く。はりをつつしみ、遠きを追へば、民のこころ厚きにかへなん

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語釈

白川説では「彳」+「省」+「心」で、ギラリと目を光らせて見回ること、その心理的威力を言う。藤堂説では、古い字体では「悳」と書き、真っ直ぐな心=本性を意味し、さらにその人格的能力と解する。いずれも、必ずしも「人徳」を意味しない。

解説

人間とはそんなに素直な生き物か?

伝統的解釈では、今回の一節を自分たち支配層に向けた、民の模範となるべき戒めと取ります。しかし原文にそのような記述はなく、単に自省すれば人はよくなるという、一般論を述べているに過ぎません。伝統的解釈はあくまでも、そう読めない事はない、と言う程度です。

そうなったのは論語よりのち、とりわけ約1200年を過ぎた宋の時代です。当時は儒者全盛時代で、彼らは支配層を独占し皇帝とも拮抗しました。その自覚が自らを厳しく律する宣言へと、論語の読み替えにつながったのですが、彼ら自身はワイロ取り放題の悪党でもありました。

儒者の発言と行動が、甚だしく不一致だったのです。

そこで今回の新釈では、原文通り自己完成の一般論として解釈しました。その理由は、当時の中国の民衆が、偉人を素直に真似る純朴な人々とは、とても言えないからです。その第一の証言者は、孔子より約300年後の法律思想家、韓非です。その著書『韓非子』にこうあります。


…孔子が奉行職*にあった頃、戦争のたび逃げる兵士が居ました。わけを聞くと、年老いた父親がたった一人で家に居るから、自分が死ぬと面倒を見る者が居ないと言いました。「ほほう、孝行息子じゃな。じゃ、帰っていいよ」と、先生はおみやげを持たせて放免しました…。


だから道徳ではなく法で国を統治せよ、というのが韓非の主張です。もっとも孔子自身がそのことを重々承知していて、地方長官だったとき、あるいは最高法官だったとき、ためらうことなく法を用い、罪人を処刑しました。お説教だけではどうにもならぬとわかっていたのです。

もちろん孔子も人間ですから、若い頃は説教だけ、つまりは口先だけで民を躾けられると思っていたでしょう。ここまで読んできたように、修養よりも就職を重んじた弟子たちならなおさらです。その結果孔子存命中から、儒家の鼻持ちならない偽善への悪評は広まっていました。

東方の大国セイの名家老晏嬰アンエイは、「あの連中は口先で諸侯をだまして地位財産をせびり、葬儀を派手にして自分らが取るお布施を吊り上げています。相手にしてはなりません」と殿様に言っています。その結果孔子は、斉での仕官に失敗し、故国の魯に戻らざるを得ませんでした。

付記

*奉行と書いた原語は「大司寇ダイシコウ」。最高裁判所長官に当たるとも、ただのお目付役兼殿様の相談役に過ぎない、とも言います。隣国斉の悪だくみを見破ったご褒美でで、「中都宰チュウトのサイ」=地方都市の代官から昇進しました。

なお宮崎市定先生は、「愼終追遠」を古い歌の引用だとし、「親の死を看取り先祖を思う、昔は人情が厚かったんだなあ」のように解釈しています。曾参の懐古譚であって、お説教ではないと言うのです。こちらの解釈も良いと思います。

伝統的解釈

曾先生がいわれた。上に立つ者が父母の葬いを鄭重にし、遠い先祖の祭りを怠らなければ、人民もおのずからその徳に化せられて、敦厚な人情風俗が一国を支配するようになるものである。

以下、訳者のメモです。
『史記』孔子世家
景公問政孔子,孔子曰:「君君,臣臣,父父,子子。」景公曰:「善哉!信如君不君,臣不臣,父不父,子不子,雖有粟,吾豈得而食諸!」他日又復問政於孔子,孔子曰:「政在節財。」景公說,將欲以尼谿田封孔子。晏嬰進曰:「夫儒者滑稽而不可軌法;倨傲自順,不可以為下;崇喪遂哀,破產厚葬,不可以為俗;游說乞貸,不可以為國。自大賢之息,周室既衰,禮樂缺有間。今孔子盛容飾,繁登降之禮,趨詳之節,累世不能殫其學,當年不能究其禮。君欲用之以移齊俗,非所以先細民也。」後景公敬見孔子,不問其禮。異日,景公止孔子曰:「奉子以季氏,吾不能。」以季孟之間待之。齊大夫欲害孔子,孔子聞之。景公曰:「吾老矣,弗能用也。」孔子遂行,反乎魯。
『韓非子』五蠹
魯人從君戰,三戰三北,仲尼問其故,對曰:「吾有老父,身死莫之養也。」仲尼以為孝,舉而上之。以是觀之,夫父之孝子,君之背臣也。故令尹誅而楚姦不上聞,仲尼賞而魯民易降北。上下之利若是其異也,而人主兼舉匹夫之行,而求致社稷之福,必不幾矣。

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